カッコイイカメオ

雑貨屋さんってどんな響きがあなたの心にあるでしょうか?雑貨屋さんってどんなお仕事だとあなたは感じているのでしょうか?雑貨屋さんってどんな夢を描ける場所なんでしょうか?今から八年前、私も雑貨屋さんに憧れていた一人でした。
お洋服も食べることも豊かで満ち足りていた日本で、一つだけ〝いまいちだな″と思えたもの……それが住まうこだわりだったのです。
私は子どもの頃からお部屋の中を飾ることが大好きで、つりの好きな父から魚とりの綱を借りてきては天井いっぱいに吊るし、その網目の一つひとつにお気に入りのいろいろをぶらさげては楽しんでみたり、お友達が遊びに来ることになったら自分専用のティーポットとティーカップでお友達をもてなすなんてこともよくやっていました。
小学校五年生の時には憧れだった母の鏡台を譲り受け、その上に道端で摘んできたお花を生けたり、母にせがんでレースのクロスを編んでもらい、そこに綺麗なガラスの容器を飾ってみたりすることが大好きでした。
今、私は夢がかなって自分のお店を持っています。
私はお部屋をすてきにするのと同じくらい、それを見てくれたお友達が「わあ、かわいい」って言ってくれることやキラキラした目で私の大切なものを楽しそうに眺める姿を見ることが大好きでした。
私が大好きで幸せを感じることが出来るものって、多くのお友達も同じように幸せな気持ちになれるんだってことを知っていました。
だから、私のお店はたくさんの女の人が「すてき!」って言って目をキラキラ輝かせるような場所にしたかったんです。
自由が丘のバスの通るメイン通りから一本だけ奥に入った、駅からすぐそばなのに静かで線の多い場所に私のお店はあります。
ちょっと寂しげな外階段から続く世界はそこだけ特別な空間いで南フランスの田舎町に行ったことがある人なら「あっ!」って思わず声をあげてしまうほどまるで本物のプロヴァンスのような空気が流れています。
お店の造りは全部南仏から古いレンガや瓦や窓を運んできて100年前のノスタルジー溢れるフランスをそのまま再現しています。
お店の中は女性の職人が生裾をかけて編みあげた素情らしいアンティークレースの数々、当時よりちょっと動きやすくつくりなおしたお洋服のあれこれ、洗剤入れなんかを新しく日本でつくりなおしたちょっと見たことのないようなおしゃれな暮らしの道具などなど。
お店のテーマは、今みたいにスローライフやロハスなんて言葉が出てくるはるか一〇年も前からずっと〝便利ではないけれど使っていて心が豊かになるものに囲まれた暮らし。
こだわりぬいた商品はどれもつくるのに大変な思いをしたものばかり(今だって大変な思いは続いていますが・・・)、商品の半分くらいは予約をしてもらわないとお売りできないものばかりです。
職人さん泣かせの難しい色使い、難しい形、手間がかかるばかりの商品づくりで、お願いしている職人さんにとってみればつくっていても楽しくない品物なのです。
でもお客様はそんな私達のモノづくりに理解と共感を寄せてくれます。
こんなにモノが溢れている世の中で本当にすてきだと心から思えるもの、世代を超えて愛されるような、何年たっても大切にしたいと思えるもの。
これはもう、モノという概念を超えた感性の共鳴。
私は大学を卒業したあと一人で世界を放浪して歩き、いろんな国々でそこの人達と暮らし、彼女達の〝暮らしに対するこだわり″にすっかり魅せられてしまいました。
お金があればなんでも手に入る、今日買ったマンションが一カ月後には二倍になって売れてしまう……町行く人は皆高級ブランド品を身につけて、でもお家に帰るとちっとも豊かじゃない暮らしをしている、そんなことに大きな矛盾を感じていました。
そんな〝なんか変じゃない?″という状態に私なりの石を投じたくて、働いた経験がなかったのにもかかわらず無謀にも雑貨屋さんをはじめてしまいました。
実は私、「雑貨」という言葉が嫌いです。
雑貨という言葉の響きに安かろう、悪かろうの粗悪品みたいなニュアンスを多くの一般の人々は感じるからです。
でも本当は違います。
雑貨屋さんって女性にとって世界一すてきなお什事だと私は思います。
もう一度生まれ変わったらまた女に生まれて、雑貨屋さんをやりたいなって思っています。
雑貨屋さんは女性の細やかな心遣いや豊かな感性をすみからすみまで活かせる場所です。
野の花を手折ってティーポットに生けてみる幸せを語りあえたら、可愛い形のジャム瓶にアンティークのレースをまいてボタン入れにしてみるすてきを語りあえたら、しゅんしゅんって音を立てて湯気があがるコーヒーポットを眺めるやすらぎを共感しあえたら、小さなすてきを暮らしにたくさん取り入れて生きてゆくことが出来たら、それはどんな大きな幸せになるでしょう。
さあ、ご一緒にしあわせを運ぶ雑貨屋さんの扉を開けてみましょう。
その時々のチャンスをどっちの方向へ向けるかによってあなたの生き方も大きく変わったりすることだってあるのです。
就職戦線真っ盛りの大学のキャンパスで一人浮かない顔をしていた、取り立ててなんの能力もなく、このままどこかに就職するのも気が進まない・・・というか怖かったさえない学生。
それが私の一五年前の姿でした。
私は大学でジャーナリズムの勉強をしていたので、〝このまま世の中の本当の姿を知らないで社会に出てゆくのはまだ早い〟なんて言い訳を考えて、とにかくなんでも見てやろう精神で思い切ってバックパック一つ背負って飛行機に飛び乗ったのでした。
友人は皆リクルートスーツに身を包み、汗をかきながら会社訪問を続けている真っ最中、その姿を横目で見ながら私の人生は大きく違う方向に進みはじめていたのです。
夏休みのほんの二週間を利用して……と思っていたのですが結局日本に帰ってきたのは数か月後。
私はこの間にいろんな国の学生たちと意見交換し、歴史の舞台を見て回り、すっかりインターナショナルな空気に包まれて、卒業後は日本を出て暮らしてみようと決意しての帰国となりました。
こうして私は自分の決意通りに大学を卒業して一年間アルバイトをし、その間にいろいろな準備をして、カナダへと旅立つのです。
母には一時だけの約束で、でも心の中では移住の希望も秘めながらの旅立ちでした。
もう桜も終わりかけていた東京の暖かさと比べると日差しは優しくなっていたものの、まだまだ風が冷たくコートをしっかり着ていないと身震いするような粟さの中で私の初めての一人ぼっちの暮らしがはじまりました。
毎日夕方になるとさみしくつて仕方ありません。
周りは日本人である自分とは全然違う白人社会。
言葉もよくわからないので新聞を読んでもわからない、テレビを見てもわからない、遠い異国でまったく知り合いもなく自分.人だけ取り残されたような気分になり、夕日を見ながら孤独で押しつぶされそうになりました。
そんなある日、夕暮れ時にぼ~っと散歩をしていて気がつくとある可愛らしいお家の窓から幸せそうな家族の様子が日に飛び込んできました。
でもふと「あれ?なんでそんな姿がはっきり見えるのかしら?」と思ってよく見るとカーテンが閉められていなくて外は夕闇。
なので当然、明るいお家の中がよく見えるわけです。
よく見るとそのお隣のお家も、そのまた隣のお家も、どこのお家も同じように家の中が丸見え。
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